「望みなき人々に希望を与えた歌 」

2025年6月1日(日) CS合同音楽礼拝
ローマ7:19-25

いま新島学園聖歌隊の皆さんがハンドベルで演奏された賛美歌、“Amazing Grace”の作者、ジョン・ニュートン牧師は、元は奴隷商人であった。奴隷貿易の航海中嵐に遭い、神に祈ったところ助けられた。これを機会に彼は改心し、牧師となり、自らの経験をもとに作ったのが“Amazing Grace”である。

歌詞の中に「こんな wretch(みじめな)私をも神は救ってくれた」という言葉がある。 人間を奴隷として売買するという自らの罪、そのみじめな自分をも神は救ってくれた. . .それは驚くべき恵み(Amazing Grace)ということである。奴隷制度という人類の歴史の中の罪の出来事から、この賛美歌は生まれたのである。

今もアメリカには肌の色の黒いアフリカ系の人が住んでいる。彼らの多くは奴隷たちの子孫だ。16世紀から18世紀にわたる時代に、600~800万人ものアフリカ人が奴隷として強制移住させられた。先にアメリカに渡っていた白人の奴隷主たちは、過酷な肉体労働で家畜のように働かせた。

自由を奪われ、希望を持てない日々. . .そんな中、彼ら奴隷たちを集団自決の誘惑から救ったものがあった。一日の労働を終えて森の奥の小屋に集まり、歌を歌ったのだ。その歌はアフリカにルーツを持つメロディ・リズムによるもので、白人(ヨーロッパ人)たちが聴いたことのないものだった。

やがて彼らはキリスト教の教えに出会う。最初はおとなしく手なずけるために押し付けられたキリスト教。しかし彼らが聖書を読んでみると驚くことが書いてあった。出エジプト記=モーセによる奴隷解放の物語. . .イエス・キリストは弱き者・貧しい者の友である. . .そのメッセージを受けとめる中から神とキリストを信じる信仰が生まれ、それをアフリカ由来の音楽で歌い始めた。こうして生まれたのが黒人霊歌である。

この黒人霊歌をもとに、ブルース、ジャズ、ゴスペルという音楽が生まれ、そこからさらにロック、R&B、Hip-Hop といった現代音楽につながる。いま世界の若者が聴いている音楽のルーツがここにある。

こうして生まれた黒人たちの歌声、特にゴスペルという音楽は別の局面で黒人たちを支えることになる。18世紀後半に奴隷制度は撤廃された。しかし根深い差別が残った。20世紀の中頃になってその差別撤廃運動を始めたのがキング牧師である。

キング牧師はデモ行進などによる非暴力の闘いを展開した。あちこちでいやがらせを受け、殴られることもあった。ひるみそうになる心に勇気を与えるために、人々はゴスペルを歌いながら行進した。人間の尊厳を取り戻す運動を、歌声が支えたのである。「ゴスペルとは望みなき人々に希望を与えた歌である」(W.ウォーカー牧師)

“Amazing Grace”の話に戻ろう。かつての奴隷商人が作った歌を、いまでは奴隷の子孫たちがゴスペル風にアレンジして歌っている。このような歌には人の心を奥深い所で支える力がある。「奴隷制度」など無かった方がよかったに決まってる。けれども人間はその罪の歴史を歩んでしまった。しかしその過ちの中から、後代の人々を支え、慰め、励まし、奮い立たせる歌が生まれて行ったのである。人間はどんな状況でも歌を生み出し、そして前に進んで来た。これからもそんな歌の力を信じて、歌いながら歩んでいきたい。