『神殿の設計図』川上 盾 牧師

2021年7月4日(日)
歴代誌下6:12-21

前橋教会では今、「レインボープロジェクト」という計画に取り組んでいる。具体的にはトイレの改修計画だが、きっかけとなったのはLGBTに関する学習会であった。今ある障がい者トイレを拡充して「みんなのトイレ」とすることで、新たな課題を受けとめられる教会を目指すものである。LGBTの人権運動のシンボルである虹(レインボー)をプロジェクト名とした。

計画を進めるにあたって、設計者の方に具体的な設計図を何回も書き直してもらった。教会が新たな建物や改修に取り組むとき、そこには自分たちの目標や理想が反映される。自ずと細かなところまでこだわった話し合いが進められていく。「我が事」として取り組んでいる証しである。

列王記や歴代誌には、ソロモンが取り組んだ神殿に関する綿密な設計図が記されている。建物の外寸・内寸から家具や調度品の寸法まで、縦○○アンマ、横○○アンマ(1アンマ=45㎝)といった記述が続く。私たちにとって無味乾燥に思える聖書の箇所である。「我が事」になっていないのだ。しかし聖書の民・イスラエルにとっては、神を礼拝する大切な神殿の設計図である。多くの人が「我が事」としてこの設計図を目を皿のようにして眺めたことだろう。

そのようにして思いを込めて設計し、建築作業の苦労も重ねてようやく神殿が完成した。その神殿の献堂式にあたりソロモンがささげた祈りの言葉が今日の聖書の箇所である。ソロモンは、そこで驚くべき言葉で祈っている。「神ははたして人間と共に住まわれるでしょうか。私の建てたこの神殿など(神が住まれるのに)ふさわしくありません」と。

綿密な設計図を引いて、丹精込めて作り上げた念願の神殿。自分たちの思いが詰まったその建物のお披露目にあたって、「どうです!?すごいでしょう!?」といった自慢の一つもしたくなるような場面である。しかしソロモンは自慢しない。それは「自分の腹を神とする」偶像崇拝の信仰を禁じ、「ただ神を神とする」というイスラエルの宗教的伝統にふさわしい姿である。そのようなソロモンの謙虚なまごころを持つこと、それがどんなに優れた神殿の設計図を描くよりも大切なことである。

ところで、人間の社会では、性別による不平等や差別が行われてきた歴史がある。教会も例外ではない。それどころか聖書の言葉を根拠として性差別やLGBT差別が肯定されてきた一面もある。聖書は我々にとって「神の言葉」とされるが、時代の限界もかかえた古代文書であり、乗り越えていかなければならない課題もある。

乗り越えていくためには、何を頼りにすればいいのか?それはイエス・キリストの共に生きる姿に学ぶことである。時代の流れと共に変わる価値観に対し、イエスの生き方に学びつつ多様性を尊重して共に生きる。それこそが私たちの本当に描くべき「設計図」である。